2016年3月4日。
これまでの人生で最大の絶望を味わった日だ。
第一志望の二次試験。
大した手応えもないまま鉛筆を机に置いた。
後日、ホームページ上で合格発表を見た。
そこにぼくの受験番号はなかった。事実上の浪人が決まった瞬間だった。
そう信じて疑わなかった。
しかし合格証書の代わりにあったのは、春から始まる予備校のパンフレットだった。
「私が合格できたのは、○○予備校のおかげです」
「○○予備校で過ごした一年間は一生の宝物です」
パンフレットには合格体験記が書かれていた。よく遊んでいた友だちのものだった。
長かった冬が終わり、春の陽気に包まれる部屋。
カーテンのすき間から差し込む、柔らかい日差し。
春休みが始まり、家の前の公園では小学生が走り回っていた。
そんな中、ぼくはふかふかの枕に顔をうずめた。何かを吐き出すように思いっきり泣いた。
そして4月を迎え、ぼくは予備校に通い始めた。
駅の改札を抜け、校舎までの道にはバス停がいくつもあった。行き先は最寄りの大学。
一限に急ぐ大学生やキラキラした大学生を見ては、惨めな気持ちでいっぱいになった。
彼らは何も悪くない。
それでも八つ当たりをしないと、淀んだ気持ちを晴らすことができなかった。
思い返してみると、浪人生活は4月が一番辛かったかもしれない。
ずっと寝たい。友だちと遊びたい。勉強なんて投げ出したい。
そういった欲望に負けた瞬間、浪人生は何者でもなくなる。一寸先はニートだ。
そんな現実を受け入れ、勉強に取り掛かるまでかなりの時間がかかった。
それでも、勉強漬けの生活は悪くなかった。
高校の授業しか受けたことがないぼくにとって、予備校の授業は即効性があった。
心はずっと暗いままだったが、成績は格段に伸びていった。
来る日も来る日も勉強。終わったと思ったらまた勉強。
始まって1ヶ月。本番まで残り9ヶ月。日数に直して270日。
気が遠くなるような道のりだった。
ぼくの予備校には色々な人間がいた。
県内随一の進学校からきた、あと少しのところで合格を逃してしまった秀才。
田んぼしかないような田舎からきた、朝から晩までずっと予備校にいる努力家。
浪人に浪人を重ねてしまい、もはや年齢不詳のお兄さん。ついたあだ名は五郎丸。
予備校を街コン会場と勘違いしているのか、手当たり次第に女子に話しかけるパリピ。
できるだけ友達は作らないようにしていたが、それが正解かどうかは分からない。
どれだけエンジョイしようと、結局は合格してしまえばいいのだ。
もし不合格になっても、自分が納得できるならそれでいいと思う。そうとしか言えない。
あれだけ長かった予備校での生活も、夏が終わるとあり得ないほど早く感じた。
秋からは毎週のように模試がある。模試が終われば別の模試がある。
模試が終わるごとに一喜一憂していると、あっという間に時間が過ぎていった。
浪人生に季節という概念はない。
毎日同じ時間に起きて、毎日同じ服を着て、毎日同じ時間に寝る。
目新しいイベントなんてない。夏とか秋とかいう言葉はアクセサリーに過ぎない。
それでもこの時期になると、勉強することが習慣になっている。
1日10時間なんて余裕である。むしろ余裕になっていないなら焦った方がいい。
そして年が明けると、間も無くセンター試験を迎えた。
ぼくは幸いにも、センター試験本番で自己ベストを出すことができた。
国立志望は言うまでもないが、私立専願もセンター試験はなめないほうがいい。
ある程度の大学を押さえておけば、私大の一般入試も余裕を持って臨めるから。
それに私大の一般入試は、年々定員が減少傾向にある。
受かるかギリギリの大学はほぼ落ちるし、絶対に受かると思っていた大学も余裕で落ちる。
ちなみにぼくが通っている大学も、センター利用で合格した大学だ。
そこを押さえておかなかったら、今でも受験勉強をしているのかもしれない。
センター試験が終わっても、それに代わる試験を対策するに越したことはない。
センター試験を終えると、私大の一般入試を受けた。
受験会場では、周りの受験生が答え合わせをしていた。ぼくの答えとは違っていた。
そして忘れもしない、2017年2月22日。
長かった浪人生活の終わりを告げるチャイムが鳴った。
浪人が終わったという実感はなかった。
ただ胸の奥につっかえていた何かが、だんだんと解けていくのを感じた。
受験会場を出ると東京駅へ向かった。そのまま高速バスに乗って実家へ帰った。
バスに乗ると真っ先に、使い古した単語帳を開いた。
それに気づくと、単語帳を閉じてカバンの中にしまった。
ただ何をすればいいのか分からなかった。
出所して間もない囚人のような感覚だろうか。
朝から晩までずっと予備校で勉強しなくていい。
大学に通っている友達からの遊びの誘いを断らなくていい。
好きなだけ本を読んでもいいし、好きなだけ映画を観てもいい。
そんな贅沢な生活を送っていいのだろうか。
たくさんの妄想を膨らましていると、気づいたら眠りについていた。
結局、第一志望には合格できなかった。
それでも現役では行けなかった大学に合格することができた。
これから浪人を考えている受験生に一言だけ言わせてほしい。
勉強の不安は勉強でしか解決できない。
勉強に行き詰まると、予備校の近くにある本屋で参考書を立ち読みをしていた。
何となく良いなと思った参考書は、母親からせびったお金を持ってレジ前に並んでいた。
参考書を買えば、何となく頭が良くなる気がしたから。
参考書に書いてある内容が、すべて頭に入っていく気がしたから。
それに勉強法について議論することも無駄でしかない。
こんなものは議論ですらない。
根拠も何もない噂を流してお互いの傷を舐め合う。
「お前の勉強法は間違っている」とマウンティング合戦を始める。
本当にくだらないと思う。
勉強の不安は勉強でしか解決できない。
参考書オタクになっても、勉強法オタクになっても、勉強はできるようにならない。
とにかく勉強。ひたすら勉強。死んでも勉強。
誰に何と言われようと机に向かい続けた奴が勝つ。
と語れるよう、悔いの残らないように一年間を突き抜けてほしい。
最後に、大学受験を終えた浪人生に一言だけ言わせてほしい。
とりあえず本当にお疲れさま。
と不安に思っている人もいるかもしれない。
しかしそんなことは全く気にしないで大丈夫。むしろ一つのネタになるから。
ただいつまでも大学受験の話をするみっともない大学生にはならないでほしい。
過去の栄光でマウンティングしてくる可哀想な人たちがたくさんいる。
はっきり言ってめちゃめちゃダサい。
このように白状しているのと同じではないか。
受験は受験の思い出にしておいて、大学は大学として楽しんでほしい。
みなさんの大学生活が実りあるものになるよう、陰ながら応援しています。
大学に入学する前に知っておきたかったことをまとめてみたのでぜひ。